数年前の半導体不足で、開発機材の調達が数ヶ月単位で遅れたことがあった。新しいサーバーを増強したくても部材が届かず、既存機材をやりくりして凌いだ記憶は今でも生々しい。あの一件で、自分の中の「モノは注文すればすぐ届く」という感覚がだいぶ崩れた。
半導体は特定の地域や企業に製造が集中しているとよく言われる。一部の工程は世界でもごく限られた場所でしか担えないという話も聞く。効率だけを追い求めれば集中は合理的だが、何か一つ止まるだけで世界中の供給網が影響を受けるという脆さと隣り合わせなのだと実感した。
分散という選択のコスト
その反省からか、各国で製造拠点を自国や友好国に分散させようという動きが進んでいるようだ。ニュースで大規模な工場建設の話を見るたびに、これは経済合理性というより安全保障の色合いが強い投資なのだろうと感じる。
ただ、分散にはコストがかかる。集中させたほうが安く作れるものを、あえて複数箇所に分けて作るのだから、その分の価格は最終的にどこかで吸収されるはずだ。自分たちが使っているサーバーやデバイスの価格にも、いずれ形を変えて跳ね返ってくるのだろうと想像している。
あの頃の教訓として、社内では調達リードタイムを長めに見積もる文化が根付いた。以前は「必要になったら発注すればいい」という感覚だったが、今は半年先の計画段階から機材の見込みを立てるようになった。急な変化に振り回されない体制づくりという意味では、悪いことばかりではなかったのかもしれない。
個人としても、身の回りの電子機器を無闇に買い替えず、長く使う方向に意識が変わった気がする。壊れるまで使うというより、次の調達が読みにくい時代だからこそ、手元にあるものを大事にするという感覚に近い。大げさに言えば、サプライチェーンの脆さを知ったことで、自分の消費行動まで少し変わったということになる。
料理でも似たようなことを考える。旬の食材が手に入りにくくなったときのために、いくつか代替できる食材の組み合わせを覚えておくと、献立が立てやすくなる。システムの冗長設計と発想は同じで、単一のルートに頼りきらないという習慣は、どうやら仕事と生活の垣根を越えて自分の中に染み付いているらしい。
効率と安定のどちらを取るかという問いに、絶対の正解はないと思う。ただ、あの数ヶ月の調達難を経験した身としては、多少コストがかかっても供給が安定している方を選びたくなる気持ちは、今もどこかに残っている。
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